Q&A17 PNHで障害年金を申請する時の注意点

PNH(発作性夜間ヘモグロビン尿症)で障害年金を申請するには

PNHとは、正式には発作性夜間ヘモグロビン尿症という病名です。
古い言い方ですと発作性夜間血色素尿症とも言います。

この病気の特徴としては、自己免疫により赤血球が破壊され、それが尿として排出されるため、コーラ色のヘモグロビン尿が出ます。
特に、夜寝る事によって免疫が活発化し、朝一番の尿に大量に排出されため、さらに色の濃い尿がでます。

夜間に溶血発作が起こってヘモグロビン尿が排出されるので、発作性夜間ヘモグロビン尿症と言います。


夜間に免疫が活発化する理由ですが、日中は重力に逆らうためエネルギーを消費しており、白血球を含む血液や各種ホルモン等を作れません。
身体を横にしているだけですと重力に対抗するエネルギーを使用しない分、それらにエネルギーをまわせます。

睡眠が大事な理由の一つです。


PNHで障害年金を申請する際に問題になるのは、初診日と認定基準です。

初診日に関しては、「再生不良性貧血で障害年金を申請するには」で紹介したのと同じ問題があります。
詳しくは「再生不良性貧血で障害年金を申請するには」を参照ください。


認定基準の問題ですが、再生不良性貧血を同じ「難治性貧血群」に分類されております。
この難治性貧血群の認定基準は再生不良性貧血を基準に作成されており、全ての血球(赤血球・白血球・血小板等)減少が前提となっております。

PNHの患者さんの中で、古典的PNHと分類される方は、赤血球(+ヘモグロビン濃度)にしか異常が現れません。

従いまして、白血球数や血小板数には異常が見られないという事になります。

その為、具体的な検査数値が定められている認定基準のB表においては、赤血球数やヘモグロビン濃度だけでの認定になります。
しかし、認定基準のA表にはそれらの配慮がなく、輸血をしているか、輸血をしていないのであれば、出血傾向や易感染症を示す事まで求められます。

輸血に関しては、やはりリスクがありますので、極力避ける方が多いです。

※ウインドウピリオドの問題で感染症のリスクもありますし、鉄が過剰に体内に溜まってしまう問題もあります。
PNHの方は赤血球が破壊されて尿に排出されますので、他の輸血を必要とする疾患の方と比べると、鉄過剰の問題は小さいです。


輸血を避けている方は、A表での出血傾向や易感染症を示さないと認定されなくなりますが、この出血傾向が曲者です。

血小板数に減少は見られませんし、仮に少し減少していても出血傾向を示すまで減少する事はありません。
(出血傾向を示す検査値は3万/?以下になり、健診等での基準値は13万~35万/?となっております。)

再生不良性貧血の方でも出血傾向を示すというのはハードルが高いのに、血小板数に異常の見られないPNHの方でほぼ不可能となります。

ですので、輸血が必要なレベルであるも、正当な理由で輸血をしておらず、さらに赤血球の寿命からどの程度の頻度で輸血が必要であるかを証明する必要があります。

それを証明して、輸血をしていなくても認定に導いた事があります。


また、現在ではソリリス(エクリズマブ)という薬が発売されたため、血管内溶血は強力に抑制されるようになりました。

この事から、もう障害年金は必要ないと日本年金機構は主張してきます。
事実、再審査請求の審理の場で、日本年金機構側の医師がそのように主張してきました。

ですが、ソリリス(エクリズマブ)は補体C5の開裂を防いで、C5b6789の膜侵襲複合体若しくは膜傷害性複合体(MAC)の生成を強力抑制するので、MACによる血管内溶血は抑えられますが、C3bによるオプソニン化は防げません。

ソリリス(エクリズマブ)を投与されている患者さんの赤血球は、血管内で破壊されなくなりますので、このC3bが赤血球表面にたくさん付着している状態となります。

こうなると、一度感染症に罹患する等免疫が活性化してしまいますと、脾臓において貪食細胞による血管外溶血が一気に進んでしまいます。

よって、溶血発作を起こしてしまう為、日本年金機構の溶血発作が起こらないという主張に反論する必要がございます。

PNHについて

PNHの種類

・古典的PNH
・骨髄不全型PNH

古典的PNHとは骨髄不全を伴わないPNHの事で、赤血球やヘモグロビン濃度以外に異常はみられません。

一方、骨髄不全型PNHは再生不良性貧血や骨髄異形成症候群と同様に、骨髄不全も伴っているケースで、溶血発作以外の問題も発生しております。

再生不良性貧血・骨髄異形成症候群・発作性夜間ヘモグロビン尿症は、骨髄不全症候群としてそれぞれが移行したり、病態がかぶったりしております。

ただ、骨髄の検査を受けて骨髄細胞が残っているとなった場合、骨髄異形成症候群と診断され、のちに発作性夜間ヘモグロビン尿症へ移行したと診断されるケースでは、当初から骨髄不全型PNHだったと考えられるケースも多いそうです。

PNHの原因

補体制御蛋白CD55やCD59を細胞膜に繋ぎとめておくGPIアンカーが、後天的な理由で欠損した状態の血球を作ってしまうため、自己免疫により赤血球が破壊されてしまう。

PIG-A遺伝子変異によっておこります。
以前は10年生存率が50%という状態でしたが、ソリリスが登場した事により天寿を全うできるようになりました。

その結果、30年以上経過した患者さんで寛解したケースが報告されてきております。
何年も経過すると、PIG-A遺伝子が変異した造血幹細胞ではなく、眠っていた正常な造血幹細胞が造血を始めるためと考えられます。

造血幹細胞もすべてが活動しているわけではないそうで、正常な造血幹細胞がのこっており、それらが造血を始めると寛解にいたるようです。

PNHの診断方法

フローサイトメトリー法でPNH血球の割合を調べます。

~参考までに~

ハプトグロビンが低下しており、LDHが上昇していたら溶血性貧血を疑います。

次に、赤血球の表面(細胞膜)に結合している抗体(免疫グロブリン)が「ある」か・「ない」かを調べる検査(クームス試験)を行い、自己免疫性溶血性貧血(AIHA)でない事を確認します。

クームス試験で陰性が出れば、赤血球の大きさ(形状)等を調べ、異常がなければ正球性正色素性貧血という事でPNHが確定できます。

赤血球の形状はMCV(平均赤血球容積)により、小球性貧血・正球性貧血・大球性貧血の3つに分類し、低色素性なのか正色素性なのかを調べます。



小球性低色素性貧血・・・主に鉄欠乏性貧血や骨髄異形成症候群

正球性正色素性貧血・・・PNHを含む溶血性貧血や出血

大球性正色素性貧血・・・骨髄異形成症候群や葉酸欠乏性貧血

 

PNHで出血傾向を有りにするには

PNHでは血小板数に異常が見られないとお伝えしましたが、PNHではしばしは血栓症のリスクが見られます。

日本人では少ないのですが、欧米人の場合、PNHで死亡するより、PNHが原因の脳梗塞等の血栓症で死亡するケースが多かったです。

これは、破壊された赤血球のカスが塊となって血栓を作ってしまう現象です。

通常の血栓症とは発生原因が異なりますが、ワーファリン等の血栓症予防の薬を使用する場合がございます。

特に妊娠中に血栓症を起こしやすいので、その期間に服用されている方は多いです。

その場合、ワーファリンにより血が固まりにくくなっている事から、止血が難しくなります。

そういう方が障害年金を申請する場合は、診断書において、出血傾向を「有」にしていただき、備考欄に「血栓症予防のためワーファリンを服用中であり、出血傾向を有にした。」という風に記載してもらってください。

 

PNHで易感染性を有りにするには

ソリリスを注射されている方は、補体C5bの経路が働かなくなった事を解説いたしましたが、その結果、髄膜炎球菌に対するリスクが増大しております。

ソリリスを使用する前にワクチンの接種を行いますが、欧米ではそれでも感染者が出て重篤な状態となります。

日本では殆どなく、日本人は大丈夫なのではと思われていましたが、残念ながら感染例が報告されました。

以上の事から、障害年金を申請する際の診断書で、易感染性を「有」にしていただき、備考欄に「ソリリスによる髄膜炎球菌の感染リスクが増大しているため有にした。」と記載してもらってください。

 

血液疾患の患者さんへ

 

Q&Aのメニューへ戻る

 

トップページへ