審査請求の趣旨及び理由書の作成方法
審査請求を行う時には、
その理由を述べなければなりません。
一般には「審査請求の趣旨及び理由」といいます。
これを作成するには基本的なルールがありまして、
・どういう結果になったのか?
・どう不服があるのか?
・どうして欲しいのか?
の3点を簡潔まとめなければならず、
しかも訴えの利益のない事は書いてはいけい事になっております。
「シンプル イズ ベスト」ではありませんが、
論点を明確にしてこちらの主張をしていく必要があります。
ダラダラと長く書いても一切意味がありませんでした。
認定基準と医学的観点から、
確かに決定が間違っていたと認めさせるような内容にしましょう。
以下に見本を掲載しますが、
過去に私が作成したものであり、
古い基準の時代ですが参考にしてください。
事例1
審査請求の趣旨及び理由書
・ ○○○社会保険事務局
社会保険審査官 様
△△ ××氏(以下:△△氏)の障害厚生年金の裁定請求に関しまして、平成1○年○月○日に不支給になったと通知を受けました。不支給の理由は、症状が固定しているとみなされず、障害認定日が到来していないからとの事でした。
障害認定日とは、初診から1年半経過した日か、それまでに治癒(症状固定した日)と定められております。△△氏の傷病名はギランバレー症候群の軸索型であり、初診日が平成1○年○月○日であります。たしかに、初診日から1年半は経過しておりません。しかし、主治医より、平成1○年○月○日に症状固定をしたと確認されております。
このギランバレー症候群とは、筋肉を動かす運動神経が侵されることにより、手足の力が入らなくなる病気です。神経細胞には活動電位の電気的信号を出力する軸索(神経繊維)という細い突起があり、その周りは髄鞘という電導を高速にする絶縁性のリン脂質の層で覆われております。一般的なギランバレー症候群は脱髄型といって、この髄鞘が傷害されるものです。残存した軸索においては、比較的良好に髄鞘が再形成されるため、数ヶ月の期間をかけて、徐々に症状も回復していきます。しかし、△△氏のギランバレー症候群は軸索型であり、軸索そのものが破壊される病気です。この場合、軸索の修復は困難であり、回復限界は3ケ月とされております。△△氏は初診日より約5ケ月経過しており、主治医が症状固定との診断をされましたのには、医学的根拠がございます。(この事につきましては、主治医より、直接審査官に医学的見解を述べてもかまわないとの返事も頂いております。)
従いまして、厚生年金保険法第47条第1項にございます、「その期間内(初診日から起算して1年6月を経過した日)に傷病が治った日があるときは、その日とし」に該当するものであります。また、ギランバレー症候群は脳血管疾患ではございませんので、6ケ月を経過しなければならないという取扱もございません。
これらの事より小職は、△△氏の症状が固定していないと判断した社会保険庁の裁定は、医学的根拠を無視したものであり、△△氏の権利を著しく不当に取り扱うのもだと考え、平成1○年○月○日を症状固定日とし、1級の「四肢の機能に相当程度の障害を残すもの」として認定していただきたく、お願いを申し上げる次第です。
平成1○年○月○日
作成者 : 社会保険労務士 河 陽輝
※この審査請求から障害年金の症状固定にかんする考えがわかりました。
また、社労士ですので、このレベルの内容を作成できます。
ご自身でされるより、プロである社労士にお任せください。
事例2
審査請求の趣旨及び理由書
・○○社会保険事務局
社会保険審査官 様
○○ ○○氏(以下:○○氏)の障害厚生年金の裁定請求に関しまして、平成1○年○○月○○日に3級の等級になったと通知を受けました。
裁定請求の際に提出いたしました診断書によりますと、確かに、他動の場合ですと関節の可動域に大きな制限はございませんし、筋力も大きく低下しているわけではございません。しかし、○○氏の傷病名は「痙性対麻痺」となっております。痙性対麻痺とは下肢の痙縮を伴う対麻痺の事であり、錐体路障害(上位運動ニューロン障害)によって現れる症状を指す病名です。
痙縮とは、筋緊張の亢進(受動的に動かしたときに正常よりも抵抗が大きい状態)の事であり、錐体路障害(上位運動ニューロン障害)とは、【大脳中心前回→内包後脚→中脳大脳脚→延髄錐体交差→脊髄側索または前索→脊髄前角細胞→末梢神経→筋肉】と随意運動の指令を伝える一連の経路の中で、大脳中心前回から脊髄前角細胞までの上位運動ニューロンに障害がある事を示すものです。
○○氏の病状は、上記の内容が示すように、力を入れようとしたり、足を動かそうとした場合に、自分の意思とは関係なく、突っ張ったり、痙攣をしたりとなかなか思うように動かせない状態であります。そのため、診断書の下肢の機能につきまして、片足で立つ(左右)・座る・深くおじぎ(最敬礼)をする・歩く(屋外)の以上の項目が、「× 一人では全くできない」になっており、歩く(屋内)が「△× 一人でできるが非常に不自由」であり、立ち上がる・階段を登る・階段を降りるの各項目は「ウ 支持若しくは手すりがあればできるが非常に不自由」となっております。 上記で示しました○○氏の傷病名「痙性対麻痺」は、脳・脊髄の器質障害であり、下肢の障害ではなく、肢体の機能の障害で認定を行うものであります。診断書が示す○○氏の下肢の日常生活動作は、上述の通り半分以上の項目が「一人では全くできない」であり、残りの項目すべてが「一人でできるが非常に不自由」になっております。
これらの事より小職は、○○氏の障害を「肢体の機能の障害」で判断しますと、「両下肢の機能に相当程度の障害を残すもの」の2級の障害に該当しており、3級と認定するのは、○○氏の権利を著しく損ねるものだと考え、再度審査をして頂きたく、お願いを申し上げる次第です。
平成1○年○○月○○日
作成者 : 社会保険労務士 河 陽輝
※この基準は改正され、今はありません。
事例3
審査請求の趣旨及び理由書
・○△□厚生局
社会保険審査官 様
○○ ○○氏(以下:○○氏)の障害厚生年金の裁定請求に関しまして、平成2○年△△月△△日に遡って3級になったと通知を受けました。
○○氏の傷病名は「再生不良性貧血(以下:AA)-発作性夜間ヘモグロビン尿症(以下:PNH)」であります。○○氏は、最初にAAと診断され、PNHに移行されております。
PNHは、PIG-A遺伝子に後天的変異が起こった造血幹細胞がクローン性に拡大し、その結果として、補体制御タンパクである「CD55(DAF)」及び「CD59」を赤血球表面につなぎとめて置く「GPIアンカー」が欠損した赤血球が作られ、免疫システムの一つである「補体」の攻撃から赤血球を守る事ができなくなり、補体により赤血球が破壊されて血管内溶血が起こる溶血性貧血であります。PNHは、国の難治性疾患克服研究事業(特定疾患)に指定されております。
AAやPNH、MDS(骨髄異形成症候群)は、造血幹細胞に異常がおこる病気であり、それぞれに移行するケースがあり、病態も重なっている場合がございます。
○○氏の診断書から□□の値が□□であり、ヘモグロビン尿の症状も認められております。これらは溶血をしている事を示しており、さらにその程度は中等度から重度の溶血発作である事がわかります。従いまして、○○氏の主症状はPNHであると判断できます。そうなりますと溶血性貧血の基準で認定するべきケースであります。
難治性貧血群の認定基準の中から溶血性貧血の認定基準を抜き出しますと、以下になります。
溶血性貧血等の障害年金認定基準
A表
区分
臨床所見
Ⅰ
1 治療により貧血改善はやや認められるが、なお高度の貧血、出血傾向、易感染症を示すもの
2 輸血をひんぱんに必要とするもの
Ⅱ
1 治療により貧血改善はやや認められるが、なお中度の貧血、出血傾向、易感染症を示すもの
2 輸血を時々必要とするもの
Ⅲ
1 治療により貧血改善は少し認められるが、なお軽度の貧血、出血傾向、易感染症を示すもの
2 輸血を必要に応じて行うもの
B表
区分
検査所見
Ⅰ
1 末梢血液中の赤血球像で、次のいずれかに該当するもの
(1) ヘモグロビン濃度が7.0g/dl未満のもの
(2) 赤血球数が200万/μl未満のもの
Ⅱ
1 末梢血液中の赤血球像で、次のいずれかに該当するもの
(1) ヘモグロビン濃度が7.0g/dl以上9.0g/dl未満のもの
(2) 赤血球数が200万/μl以上300万/μl未満のもの
Ⅲ
1 末梢血液中の赤血球像で、次のいずれかに該当するもの
(1) ヘモグロビン濃度が9.0g/dl以上10.0g/dl未満のもの
(2) 赤血球数が300万/μl以上350万/μl未満のもの
PNHは赤血球が異常に早く破壊されて起こる貧血です。よってヘモグロビン濃度及び赤血球数に異常をきたす病気です。○○氏の病状を障害認定日の診断書から判断しますと、赤血球数は××万/μlであり、ヘモグロビン濃度は××g/dlとなっております。これをB表に当てはめますと、「BⅡ」に当てはまります。また診断書の「⑬ 3 輸血の回数及び総量」においては、この○年間で△△△△ml(合計△回)の輸血が行われている事が証明されております。また、現症時の診断書には輸血回数が合計△△回・□□□□mlとなっており、その後の○年間に計○回・○○○○mlの輸血を受けられております。これは輸血を時々必要とするもの以上であり、A表の「AⅡ」若しくは「AⅠ」に該当しております。また、診断書における一般状態区分表においても「ウ」の評価とされており、障害認定日の時点において、溶血性貧血の認定基準の2級に該当しているのは明白であります。
次に現症時の診断書におきましては、赤血球数は××万/μlであり、ヘモグロビン濃度は××g/dlとなっております。赤血球数は「BⅢ」になりますが、ヘモグロビン濃度は「BⅡ」であり、2級の「BⅡ」を満たしております。また「⑬ 3 輸血の回数及び総量」においては、認定日以降の○年間でさらに合計○回・○○○○mlの輸血を受けられております。平成2○年○月○日の輸血開始からですと、△ケ月に1回のペースで受けられている事がわかります。よって、これも輸血を時々必要とするものであり、A表の「AⅡ」以上に該当しております。また、診断書における一般状態区分表においても「ウ」の評価とされており、申請時点でも、溶血性貧血の認定基準の2級に該当しているのは明白であります。
これらの事より小職は、○○氏の障害の状態は、認定日時点においても、申請日時点においても共に2級に該当していると証明できますので、再度審査をして頂きたく、お願いを申し上げる次第です。
平成2□年□□月□□日
作成者 : 社会保険労務士 河 陽輝
※血液難病(骨髄不全症候群等)はそれぞれに移行したり、
白血病に移行したりします。
また、持病をお持ちの場合は十分な治療ができないケースもあり、
それら治療法を知っていないと対応できません。
ATG、シクロスポリン、エクリズマブ等の知っている社労士でないと、
きちんとした対応はできないでしょう。
ただ、文章的にはこのようにシンプルなもので認められました。